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/《友達には見えない》

「ふあぁー、ぁ……」

　朝倉純一はこみ上げてきた欠伸を堪えることなく開放す
る。

　帰りのＨＲ――なにやら担任が連絡事項を言っているよ
うだが、再びこみ上げてきた欠伸とともに流すことにする。
#NEXT

　やがて週番の号令がかかり、放課後になる。

「さぁて、行きますか」

　純一は先程までと打って変わって軽やかな動作で身支度
を整えると、教室を後にしようとする。

　しかし、純一と教室の扉との間に黒い物体が割って入る。
#NEXT

「俺は、早くこのかったるい教室からオサラバしたいんだ
　が……？」

　――ここを出て、廊下を進んだ先にある教室に恋人の水
越眞子を迎えに行く、それが純一の行動目標だ。

「まぁ待て、同志朝倉よ。俺とお前の仲ではないか」

　目の前に立つ杉並がにやっと笑う。
#NEXT

「うるせぇ、お前が俺のことを“同志”なんて呼ぶ時はロ
　クなことがねえだろうが！」

「何を言う。俺はお前と再び手を取り合い、幾度目かの復
　活を遂げた教授の野望を阻止しよう、と誘いに来たのだ」

「あぁん？　あのアーケード、新作出たのか？」

「然り」

　だったら、最初から「ゲーセン行こうぜ？」で済む話だ
ろうに……。
#NEXT

「で、どうなのだ？」

「うーん、そうだな……」

　帰り道はやはり眞子と帰りたいが、杉並とは最近あんま
りつるんでやれていないから誘いに乗りたいのも確かだ。
#NEXT

「なぁ、眞子も誘っていいか？」

「ん？　水越か。もしや、彼女とプレイする気か？
　それでは俺とのタッグが組めないではないか」

「いや、そうじゃない。定かじゃないが、アイツはゲーム
　が好きとは思えん」
#NEXT

「では何だというのだ。後ろでハベらせて衆目を得るつも
　りか？」

「注目っていう点では間違ってないが、ハズレだ」

　純一は少し声のトーンを落とす。
#NEXT

「眞子には『パンチングマシン』に挑戦してもらう」

「ほぉ……、それは実に興味深い」

「だろ？　アイツの炎の鉄拳から解き放たれる拳（インパ
　クト）で叩きだされる人類未踏の記録（レコード）、お
　前も見てみたいだろ？」
#NEXT

「……その話、乗った」

　ガシッと純一と杉並は握手を交わす。

「ねえ朝倉、誰の拳が解き放たれるって？」

　いつの間にか純一の横には人影が立っている。

「そりゃおまえに決まって……、ん？」
#NEXT

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　その瞬間――マシンに向けられるはずであったインパク
トが純一に炸裂する。

「ぐはっ……。ま、眞子、いつからそこに……？」

　床に膝を落とし、純一が悶絶する。
#NEXT

「今さっきよ。あんたがなかなか来ないからこっちから来
　てみれば……」

　パキパキと眞子が拳を鳴らす。

「ふむ……」

　そんなふたりを見ながら、杉並は顎に手を当て、思案顔
をしている。
#NEXT

「なによ？　杉並もなにか言いたいことがあるわけ？」

　ギロッと眞子の釣り上がった目が杉並を射抜く。

「そうだな、強いて言うならば、お前たちがまるで恋人同
　士に見えない、といったところだな」

　真顔で杉並が答える。
#NEXT

「そうか？」

「そう？」

　純一と眞子はお互いに顔を見合わせる。
#NEXT

「性別はともかくとして、仲の良い友達同士がじゃれあっ
　てるようにしか見えんぞ？　まだ、“フリ”をしていた
　時の方がそれっぽかったくらいだ」

「余計なお世話だ！」

「余計なお世話よ！」

　ふたりのリアクションがシンクロする。
#NEXT

「ふむ、まあいい。で、朝倉よ、ゲーセンはどうするの
　だ？」

「そ、そうだな……」

「却下よ却下！　行くわよ、朝倉！」

　眞子に手を掴まれて純一はグイグイと引っ張られていく。

「達者でな、同志よ」

　杉並のやれやれといった呆れ顔にふたりは見送られる。
#NEXT

　昇降口まで引きずられたところでようやく純一は眞子か
ら解放される。

「まったくもう、あんたは……」

　腰に手を当てながら眞子はため息を吐く。
#NEXT

「わりいな。まさか杉並（ヤツ）に捕まるとは思わなくて
　さ」

　純一は片手で謝りながら苦笑する。

「まぁいいわ、許したげる。寒くなってきたし、さっさと
　帰ろ、朝倉」

「りょーかい」

　ふたりは靴を履き替え、外に出る。
#NEXT

music bgm_after

「あっ、水越さーんっ！」

　丁度校門に差し掛かった辺りで眞子が呼び止められる。

「良かった……、まだ学園に居たんですね」

　少し駆け足で、彩珠ななこが純一たちに追いつく。
#NEXT

「よお、ななこ」

「あ、朝倉くんもご一緒でしたか」

　ぺこりとななこが純一に挨拶をする。
#NEXT

「で、どうしたの？　ななこ」

「あ、えーっと、これを返そうかと思って」

　ゴソゴソと鞄をあさって、一冊の参考書を取り出すと、
それを眞子に手渡す。
#NEXT

「あーこれね。別に明日でも良かったのに。わざわざあり
　がとね、ななこ」

「ううん、こっちこそ借りっぱなしだったし」

　ふたりの会話を聞きながら、ふと純一はさっき杉並が言っ
ていたことを思い出す。
#NEXT

「なぁ、ななこ」

「はい、なんでしょうか？」

「共通の友人として訊きたいんだけどさ、俺と眞子って恋
　人同士と友達同士、どっちに見える？」
#NEXT

「ちょ、ちょっと、朝倉っ？！」

　純一の脇腹を眞子が小突く。

「うーん、そうですね……」

　口元に指を当てながらななこは少し考える素振りを見せ
る。
#NEXT

「おふたりには申し訳ないのですが、少しスキンシップが
　多めのお友達同士、でしょうか……」

　苦笑混じりにななこが答える。

「ふーん、そっか」
#NEXT

「はい……。画的には良いんですけど、題材としてはちょっ
　と弱いですかねえ……」

　ななこは小声でなにやらブツブツと言っている。

「…………」

　隣にいる眞子はなんだか心ここにあらず、といった様子
だ。
#NEXT

「あ、それじゃあ、私は用件も済みましたのでこれで失礼
　しますね」

「あ、うん。じゃあね、ななこ」

「じゃあな、ななこ」

「はい、それでは」
#NEXT

　ぺこりと頭を下げると、ななこは通学路を忙しそうに駆
けて行ってしまった。

　こうして、ようやくふたりで通学路を歩き始める。
#NEXT

music bgm_mako

「ねえ、あたし達ほんとに恋人同士に見えないのかな……？」

　唐突に眞子が訊いてくる。

「そんなことないだろ。別にいいんじゃないか？
　いつも通りで」

　いつものように、純一の右腕に自分の左腕を絡ませて隣
を歩く眞子を見ながら、純一は答える。
#NEXT

「もしかして、気にしてたのか？」

「別に、そういうわけじゃないけど、さ」

　眞子は自分の前髪をくるくると人差し指に巻きつけなが
ら歯切れの悪い言葉を並べる。
#NEXT

「なら、いいじゃないか」

「う、うん……」

　それからしばらく、沈黙する。
#NEXT

「ねえ、朝倉」

「んー？」

「たまにはさ、友達に見えないこと、してみない？」
#NEXT

「なんだ？　いきなり」

「い、いいじゃない別に！　ちょっと思いついただけよ」

「おいおい……」
#NEXT

「とーにーかーく！　次のデートで実践！　わかった？」

「ま、別にいいけどさ」

「じゃー決定。ふふっ、朝倉、期待してなさいよ？」

　眞子はなぜだか気合の入った表情を浮かべている。
#NEXT

　そうこうしているうちに、眞子の家の前に到着する。

「あーあ、もう着いちゃった……」

　残念そうにしながらも、絡んでいた眞子の腕がすっと離
れていく。

「朝倉、送ってくれてありがとね」
#NEXT

「おう、また明日な」

「うん、また明日！」

　眞子はいつものように明るい笑顔を見せると、自宅の門
の奥に消えていく。
#NEXT

「さて、俺も帰るかな」

　木枯らしの中、自分の右半分に残る眞子の体温を思い出
しながら、純一も家路につく。
#NEXT

「それにしても、眞子は何をする気なんだろう」

　歩きながら純一は次のデートについて考える。

「眞子のことだから乙女チックなことは有り得ないよな。
　ペアルックとかお揃いのものでも買わされるんだろう
　か……」
#NEXT

　なんだか考えれば考えるほどかったるくなってくる。

「ま、いいや。とりあえず、眞子さんのお手並み拝見とい
　きましょうかね」

　思考を終了させると、純一は帰りを急いだ。
#NEXT

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　デート当日、純一の姿は待ち合わせ場所である商店街の
入口にあった。
#NEXT

　奇跡的に早起きに成功した純一は、朝食を摂ると、特に
することもなかったので早めにやって来ていたのだ。

「ふむ……」

　純一は腕時計で時間を確認する。
#NEXT

　――約束の１５分以上前。

「俺の方が早いって、もしや、３年目にして初の出来事じゃ
　ね？」

　いつもなら時間に遅れてきた純一を眞子が怒声と軽い肘
鉄で迎える、というのがデートの流れなのだが今日に限っ
ては立場が逆転しそうだ。
#NEXT

「ま、アイツには『ごめん、待った？』は通用しなかった
　からな。俺から実践してやるのも、まぁいいかな」

　ポケットに手を突っ込みながら、純一はぼーっと待つこ
　とにする。
#NEXT

　だが――眞子はいっこうに現れない。

「遅い……」

　時計を見ると、既に約束の時間を１０分は回っている。
#NEXT

　幸い、今日は小春日和で陽射しもあるから凍えてしまう
ようなことはないにしても、手足の先は冷たくなってきて
いる。

「待たすのはいいけど、待たされるってのはこうもかった
　るいのか……」
#NEXT

「ごめんなさい、待ちました？」

　身勝手な悪態をついていると、背後から唐突に声をかけられる。

「おー、俺も今来たとこ、……ろ？」

　振り向くとそこには――知らない女性がいた。
#NEXT

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　誰だろうこの女性（ひと）は？

「こんにちは、朝倉クン」

「…………？」

　――どうして、自分の名前を知っている？

　もしや、個人情報の流出を絡めた新手のナンパか？
#NEXT

　純一は無い脳をフル回転させる。

　その様子を、純一が見惚れて固まっていると思ったのか、
目の前の女性がくすっと笑う。
#NEXT

　改めて目の前の女性見ると、ロングの黒髪に上は流行り
モノのワンピース、そこから伸びる脚には黒のニーソック
スと編み上げブーツを履いている。

　加えて、これらを華麗に着こなしているこの人物自体も
紛れもない美人だ。
#NEXT

　それも、自分の恋人とは正反対のカワイイ系の。

「あ、あのー……ドチラサマデショウカ？」

　純一は正直に自分の疑問を口にする。

「なっ……！」

　その瞬間に女性の薄く紅をさした唇と、整った眉が歪に
ゆがむ。
#NEXT

「わ、わからないかな？　私だよ、私」

　すっと女性は胸の前で拳を握る。

　――アレ？　この構えどっかで……。
#NEXT

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「ま、まさか……」

　口調も違うし、女の子っぽい服装もしているが
この女性は――
#NEXT

「眞子……なのか？」

　あまりの変身っぷりに純一は思わず疑問形になる。
#NEXT

「もう、朝倉クンったら、自分の恋人のことを忘れたらダ
　メですよ？」

　眞子はにっこりと微笑むが目は全く笑っていない。

「あ、あははは……」

　純一は空笑いで無理やり誤魔化す。
#NEXT

「そ、それじゃ行こうか、眞子」

　強引に話題を変えて商店街に歩き出そうとした純一の腕
を眞子が掴む。

「朝倉クン、もう一回最初からやりましょう」

「え？」
#NEXT

「だって、今日は『恋人同士に見えることをしよう』って
　言ったでしょう？　だからもう一回、最初から♪」

「お、おう……」
#NEXT

　眞子は純一の腕を離すと、一度建物の陰に消えて、再び
現れる。

「ごめんなさい、朝倉クン。待ちました？」

「お、おう、眞子……。俺も今来たところだから」
#NEXT

「本当ですか？　良かった」

　胸の前で手を合わせながら眞子が柔らかく笑う。

「それじゃ、行こうか」

「はい、朝倉クン」
#NEXT

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　純一が歩き出すと隣に並んだ眞子は指を絡ませるように
して手を繋いでくる。

「お、おい……」

「どうしたの？　朝倉クン」
#NEXT

「い、いや、いつもみたいに腕組んでくるのかと思ってさ」

「それでもいいんですけど、こういうのも良いでしょう？」

　眞子は楽しそうに純一を見つめている。

　揺れる髪と紅い唇がなんだか妙に艶かしい。
#NEXT

「そ、そうだな」

　いつもと違う眞子の姿と口調に純一は不意にドキッとし
てしまう。

　純一は眞子と繋がった部分――恋人つなぎになった右手
と自分の頬から徐々に熱が広がっていくのを感じた。
#NEXT

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　しばらく商店街でウインドウショッピングを楽しんだ後、
ふたりは桜公園のベンチで一休みすることにする。
#NEXT

「おまたせ、眞子」

「あ、ありがとう、朝倉クン」

　純一は買ってきたクレープを眞子に手渡すと、自分も眞
子の隣に並んで座る。
#NEXT

「うん、ここのクレープはやっぱり美味いな」

　小腹が空いていたこともあって、純一はぺろりと自分の
分を平らげる。

「は、はい。そうですね……」

　いつもなら、ぱくぱくと食べていく眞子が今日は進みが
遅い。
#NEXT

　もしかして、お嬢様っぽく上品に食べるつもりなんだろ
うか。

「そんなんで、味分かるのか？」

　苦笑混じりに純一は尋ねる。
#NEXT

「……わかんない、じゃなかった……、ううん、美味しい
　よ、朝倉クン」

　取り繕うように眞子が笑う。

「そ、そうか」

　無理しないで、そのまま食べた方が美味しいだろうに。
#NEXT

「朝倉クン……、私もうお腹いっぱいだから、その……」

「ん？」

「あ、あーん」

　眞子がくいっと自分のクレープを差し出す。
#NEXT

「ま、マジか……」

　改めてやるとなると、なんだか恥ずかしい。

「ほら、朝倉クン、遠慮しないで。あーん♪」

　眞子の少しだけ紅潮した笑顔と、クレープが近づいてく
る。
#NEXT

「あーん、はむ……」

　純一は一口ずつ“あーん”されながら食べていく。

「どう？　美味しい？　朝倉クン」

「あ、あぁ……」

　可愛らしく笑う眞子に純一は生返事で返す。

　ドキドキしてしまって、クレープの味は正直よくわから
なかった。
#NEXT

　クレープを食べた後、暖かな気温も手伝って、ふたりは
桜の大木へ寄ることにする。

「んーっ、気持ちいね、朝倉」

　２歩ほど先を行く眞子が後ろ向きに歩きながら伸びをす
る。
#NEXT

　素が出てしまっているが、ここは黙っておいた方がいい
だろう。

「そうだな。でもそんな歩き方してると落ち葉の下の根っ
　こに足引っ掛けるぞ？」
#NEXT

「大丈夫だよ、朝倉ク……っきゃ！」

　眞子の身体が大きくよろける。

「おっと……」

　純一は素早く眞子を受け止める。
#NEXT

「あ、ありがと……」

「ったく、言わんこっちゃない。立てるか？」

「うん……、さすがだね朝倉クンは」

　眞子を立たせると、純一はそっと右手を差し出す。
#NEXT

「また躓かれるのもかったるいからさ……、お手をどうぞ
　“お嬢様”」

「はい、喜んで♪」

　眞子は嬉しそうに手を繋ぐ。
#NEXT

「朝倉クン、今日初めて『かったるい』って言いましたね」

「一応、恋人とのデートだからな……。今日ぐらいは封印
　しようと思ってたんだよ」

「ふふっ、でもその方が朝倉クンらしいですけどね」
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　そうしてふたりは桜の大木に到着する。

「少し、お話をしましょうか」

　大木に背中を預けながら、眞子はゆっくりと腰を下ろす。

「りょーかい」

　同じようにして、純一も隣に腰を下ろす。
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「今日の私の服、どうでした？」

「あぁ、良いと思うよ。眞子にそういう格好が似合うなん
　て、新発見だった」

「お化粧とかは？」
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「正直、良いか悪いかなんてよくわかんないけど、可愛い
　んじゃないか？」

「あ、……ありがと」

「ってか、ずっと気になってたんだけど、その頭ってどう
　したんだよ？」
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「これですか？　ウィッグです。
　レンタルで借りたんですよ」

「へぇー、そうなんだ」
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「ねえ、朝倉……」

　ウィッグの毛先を弄りながら眞子が純一を見つめる。

「今日のあたしたちって恋人っぽく見えたのかしら？」
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　唐突に訊く眞子の顔はなんだか複雑そうだ。

「うーん、人並みには見えたと思うけど、よくわからんな」

　純一はガシガシと頭を掻く。
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「じゃ、じゃあさ……朝倉クン、ここで恋人っぽいこと
　しよ、……しましょうよ」

　たどたどしい口調で言うと、眞子はそっと純一の手に自
分の手を絡ませる。
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　その瞳は少しだけ熱を帯びているようにみえる。

　普段なら、どちらからともなくキスをするタイミングだ。

「…………」

　しかし、自分から行ったものかと純一は二の足を踏む。
#NEXT

「…………」

　眞子も今の態度を崩せないのだろう。

　気不味い雰囲気の中、お互いに見つめ合って動けない。
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「朝倉クン……キスをし……しま……してくだ……」

「ったく、こんな時にも“お嬢様”なのか？」

　純一が思わず苦笑する。
#NEXT

「…………」

「眞子？」
#NEXT

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「あーっ！　もう、じれったい」

　そして、眞子はウィッグを放り投げると――

「朝倉っ！」

　そのまま強引に純一に口吻をする。
#NEXT

「っ！　ま、眞子？！」

「うん。あーっ、スッキリした」

　呆気にとられる純一を尻目に、眞子は満足そうに笑う。
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「やっぱり、あたしにお嬢様なんてのは向いてないね」

　どうやら、眞子はいつもの調子に戻ったようだ。
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「そうだな……うんうん」

「そこはウソでも否定しなさいよね……」

　しみじみと腕を組みながら頷く純一を眞子が肘で小突く。
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「やっぱり、あたしはあたしらしく、あんたはあんたらし
　く。あたし達はあたし達らしく、だね」

「別に偶にだったら眞子のお嬢様姿、見たいけどな」

「バカ……」

　そうしてふたり、笑い合う。
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「ところでさ、眞子」

「なによ？」

「アレ、どうするんだ？」
#NEXT

　純一は放り投げられて落ち葉と土塗れになったウィッグ
を指差す。

「あ……」

　眞子が固まる。
#NEXT

「確か、アレってレンタル……だったよな？」

「あーもう、うっさい！　あんたのせいなんだからね！」

　やけくそ気味に眞子は純一に当たる。

「えー……」
#NEXT

「いいから、あんたも謝りに行くの！　わかった？」

「へいへい」

　そんな眞子の怒声を聞きながら、かったるくも心地好い
と思う純一であった。
　
　
　
　――Ｆｉｎ
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